重度訪問介護は、重度の身体障害や知的障害、精神障害を持つ方の自宅に出向き支援を行うサービスです。居宅介護との違いは入院時の支援を含む点です。障害支援区分4以上で一定の条件(※)を満たす方が対象者となっています。支援内容は、食事・入浴・排泄などの身体介護や、調理・洗濯・掃除等の家事援助、生活等に関するご相談および助言、病院への付添いなどです。
障害種別によるケアを考える
「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」
ALSの主な症状
・筋力の低下 ・手足のこわばり
・筋肉の萎縮 ・嚥下障害
・呼吸障害 ・舌運動麻痺
・構音障害(呂律が回りにくくなり、しっかり声として発声できない)
これらの他に、少しの刺激など、感情に関係なく笑った表情や怒った表情になるといったのもあります。また、こういった障害と同時に言葉の意味が理解できなくなるといった認知症を併発されることもあります。筋力が低下して動けない状態が続くことや食事がうまく取れないことで体重減少することがあります。
この病気にかかる人は人口10万人当たり約1~2.5人です。
症状が発症してからの病状の進展ですが、進行のスピードは速い病気です。
人工呼吸器を使用しない場合、平均発症から2~5年で死亡します。
発症のタイプによっては、人工呼吸器を使用せずに発症から20年以上の生存のケースもあります。症状や病状の進行度合いについては個人差が大きい病気です。
現在病気の研究中ということもあり、リハビリなど対処療法、薬による進行を遅らせるもの、
症状が進行した場合の人工呼吸器など使用することで機能低下を少なくすることで進行を緩やかにすることが可能です。
ALSの治療は進行を遅らせ、痛み・苦痛を和らげること
~ ALSのケアについて
ALSの根本治療は今のところありません。症状の進行を遅らせる薬物治療に加えて、痛みや苦痛を和らげるリハビリテーションや、呼吸・食事のための治療を行います。
・薬物治療
神経細胞を保護するリルゾール(内服薬)や、神経細胞を破壊させる物質を除去するエラボン(点滴)などの薬を使用します。どちらも、ALS患者さんの生存期間や人工呼吸器装着までの期間を数か月間延長させる効果があります。
・リハビリテーション
身体を動かさないことでさらに筋力の低下が進み、関節が動かしづらくなります。リハビリテーションを行うことで、痛みの予防にもつながります。また、食べ物を飲み込む力や呼吸で使う筋肉を維持するための訓練を実施します。
・食事について
口からの食事が難しい場合は、食べ物を直接胃に注入するため、胃ろうをつくる手術を行います。高カロリー食により体重減少を抑えることは、筋力低下の抑制につながります。
・呼吸について
自力で痰を出すことが難しくなるため、機械を使って数時間おきに数回、痰を取り除きます。呼吸が難しくなると人工呼吸器を使用します。はじめは寝ている間を中心に、マスク型の人工呼吸器を使います。症状が進行すると終日の装着が必要となるため、喉から気管に人工呼吸器の管を直接挿入する気管切開を実施します。最近の人工呼吸器は小型であり、装着しても自宅で過ごしたり、外出も可能です。
在宅でご家族がケアをする際、ポイントとなるのは「食事支援」「呼吸支援」「コミュニケーション支援」「治療方針の決定」「介護施設の検討」の5つです。
・食事支援
誤嚥(誤嚥)を防ぐため、食事の際には体を起こし、食後もしばらくはこの姿勢をキープします。ひとくちの量は少なめにし、ピューレ状の果物や牛乳に浸したパンなど、水分が多く滑らかなものを準備しましょう。汁物には薬局で売っている増粘剤(とろみ剤)を入れて、とろみをつけます。
・呼吸支援 ➡ 喀痰吸引のページへリンク
吸引器を用いて痰を取り除く吸引や、人工呼吸器の操作や管理を行います。
・コミュニケーション支援
声を出す脳の指令が、喉や舌に伝える神経がうまく働かないことで発声が困難になったり、気管切開を行うことで声を失ってしまう場合があります。そのため、イラストや50音が書かれたコミュニケーションボード、ICT機器を使って、指や目線でコミュニケーションを取っていきます。
「筋ジストロフィー」
筋ジストロフィーとは、筋肉の壊死と再生が慢性的に繰り返される遺伝性の筋疾患です。
筋肉の壊死と再生が慢性的に繰り返されることで、
筋肉の萎縮や繊維化などが起こり、筋力が低下して、運動機能に障害が起こります。
筋ジストロフィーの根本的な治療薬はなく、対症療法が治療の中心となります。
筋ジストロフィーの症状
筋ジストロフィーは、筋力がどんどん低下し、運動機能に障害が起こる疾患です。特に、骨格筋の筋力低下が主症状になります。
骨格筋の筋力が低下すると、次のような症状が起こります。
・歩行障害などの運動機能の低下
・関節拘縮や変形
・咀嚼・嚥下機能の低下
・表情筋の筋力低下
筋ジストロフィーは進行すると、骨格筋だけではなく心筋や平滑筋の筋力も低下しますので、心機能や胃腸障害なども合併します。また、発達障害や知的障害、てんかん、眼症状、腫瘍などの合併症も起こります。
筋ジストロフィーの治療は進行を遅らせ、痛み・苦痛を和らげること
~ 筋ジストロフィーのケアについて
体の機能と合併症の有無を定期的に検査すること、将来に生じる障害を予見した対応を取ることが基本です。運動機能とそれ以外の機能障害・合併症については、疾患ごとの特徴はあるものの、決まった順序で生じるとは限りません。筋ジストロフィーを専門にしている神経内科医・小児神経科医を中心に、必要な診療科を受診し、早期発見と早期対応をするように努めましょう。
・リハビリテーションについて
筋ジストロフィーは、リハビリによって健康や活動範囲、生活の質(QOL)を維持することができます。とりわけ、関節の可動域や肺をきれいに保つことは重要です。
- 関節可動域訓練:拘縮や変形の予防
- 転倒・事故予防対策:けがや骨折の予防
- 装具・(電動)車いす処方:生活範囲の維持拡大
- 呼吸理学療法:肺を柔らかくきれいに保つ
- 摂食嚥下訓練:誤嚥性肺炎の予防、経口摂取(QOL)の維持
- IT訓練など:社会参加の支援
・食事について
筋ジストロフィーでは、食べ物を噛んだり(咀嚼:そしゃく)、飲み込んだりする(嚥下:えんげ)の力も落ちていきます。適切な姿勢が食事時間中に安定して取れるよう工夫しましょう。嚥下機能に合わせて、食べ物の硬さや大きさを合わせましょう。食形態を変化させると、食感の変化が乏しく、食べる楽しみが減ると訴えられる患者さんも多いです。味や温度、色や形、においなどに変化を付ける工夫も試みましょう。十分な栄養を口から安全に摂取することが困難になった場合、安全に栄養を摂取する方法として胃瘻が多く用いられます。胃瘻とは、おなかに小さな穴を開けて胃に管を通し、そこから栄養を投与する方法で、多くの場合、胃カメラを使って造設します。
・呼吸について
筋ジストロフィーの患者さんは、運動機能が低下するため、さらに呼吸機能低下に気付きにくくなります。このため、定期的な検査で呼吸機能を把握し、適切な時期から必要な対処法を導入していくことが大切です。筋ジストロフィーでは呼吸筋の筋力が低下することで、呼吸不全が起こります。呼吸不全が起こると、酸素投与をし、最終的には気管切開を行って、人工呼吸器をつけることになります。
「脳性麻痺」
「脳性まひ」は病気ではありません。
何かの原因(未熟児とか仮死など)で出産前後に脳の一部に傷がついたための後遺症です。脳というのは、手足を動かすための命令を出したり(運動神経)、音を耳で聞いたり、光を目で見たり、皮膚で痛いとか冷たいとか感じたり(感覚神経)する働きがあります。それから、覚えたり、思い出したり悲しんだり、考えたりもします(高次神経)。だから傷がつく場所によって、できないことが色々違ってきます。
脳性麻痺の主な症状
脳性麻痺の症状は多岐に渡るのですが、その中でもよくある症状は次の通り。
・身体(特に手や足)の筋肉の過緊張、硬直。
・動作が緩慢でぎこちない。
・不随意運動(意志に反して身体が動く、急に跳ね上がる、震えるなど)。
・体幹機能障害(姿勢が不安定、または保持することができないなど)。
・上肢障害(腕力や握力の過不足、手先の器用さの低下など)。
・下肢障害(立つ、歩くことが困難など)。
・発語障害(明瞭に発語、発話することができない)。
・嚥下、咀嚼障害、睡眠時などの無呼吸症。
■痙直型
脳の錐体路を中心とした部分に障害が出ることで、筋肉が硬直して、持続して縮んだ状態が続きます。視覚障害や斜視を合併することが多いという特徴があります。
・片麻痺=体の片方のみに障害が現れます。脚は膝や股関節が伸びきらないため、尖足歩行になりやすく、腕は掌で支える姿勢がとりにくくなります。
・四肢麻痺(両麻痺)=四肢麻痺は、独歩が可能な状態から座位が取れない状態まで障害の程度の幅が広いという特徴があります。また、四肢麻痺は各関節を伸ばしきれないため、関節拘縮が起こりやすいことも特徴の1つです。
■アテトーゼ型
アテトーゼ型は脳の錐体外路を中心とした障害で、不随意運動が症状の特徴です。不随意運動があるために、運動の調節や協調、コントロールがうまくできません。不随意運動が主症状ですので、関節拘縮は起こりにくく、知的障害の合併はそれほど多くありません。ただ、顔面の筋肉の不随意運動により、発語や発声などの言語障害や咀嚼・嚥下障害、流涎などの症状が現れることが多いです。
■失調型
小脳や大脳皮質の平衡を調節する神経経路に障害が起こることで、筋肉の衰弱やふるえ、バランスのとりにくさ、運動の不安定性などが症状に現れます。また、イントネーションには抑揚がなく、話し方がゆっくりであることも、失調型の特徴の1つです。
■強剛型(固縮型)
強剛型は錐体路の障害で四肢の屈曲・伸展、どちらにも筋肉の緊張が生じることが特徴です。そのため、四肢の関節を伸ばす時も曲げる時も筋肉に緊張が起こるので、歯車のようにカクカクとした動きになるのが特徴です。
■混合型
混合型は、今まで説明した4つの脳性麻痺の型が2つ以上合わさったもので、混合型の多くは痙直型とアテトーゼ型が混ざったものになります。混合型の場合は、混合しているどちらか一方の型が強く出ていることがほとんどになります。
~ 脳性麻痺のケアについて
・食事について
脳性麻痺の患者は顔面の不随意運動から、咀嚼障害や嚥下障害が起こることが多いため、誤嚥を起こすリスクがあります。誤嚥が起こると、誤嚥性肺炎を起こし、命にかかわることがありますので、誤嚥を起こさないようにケアをしていく必要があります。